本研究では神経変性、病態形成、修復・再生に大きな影響を与えると推測されるミクログリア活性化の誘導あるいは抑制といった機能調節に注目し、その分子メカニズムの解析を行うことを目的とした。 ラット顔面神経切断系の観察から、ミクログリア活性化の誘導因子として、ニューロトロフィン(BDNF)およびATPを候補としてとりあげ、それらのミクログリアに働く可能性を検討した。その結果、BDNFはプラスミノーゲン(PGn)やウロキナーぜの分泌を促進し、ATPは形態変化を誘導し、PGn、TNFαの分泌を促進することがわかった。これらの因子は生体内におけるニューロン由来のミクログリア活性化因子としての可能性が示唆された。(業績欄参照)。 一方、活性化ミクログリアの沈静化に働くと推定されるGDNFを取り上げ、培養ミクログリアに対する作用を調べた結果、GDNFはミクログリアの生存性、形態、増殖性には影響を与えないが、ウロキナーぜやPGnの分泌を強く抑制することが示された。脳損傷やアクソトミーなどで観察されるミクログリアの活性化は次第に沈静化されるが、この過程にGDNFが関わる可能性が推測された。(業績欄参照)。 ミクログリアの活性化に関与するシグナル伝達系を調べるために、LPSによる活性化をモデルにして検討した。LPSの添加により細胞傷害性因子である一酸化窒素(NO)やTNFαの放出が誘導されるが、これらは、PKCの特異的阻害剤により強く阻害を受けた。また、この時、ERK、JNK、p38MAPキナーゼはすべて活性化されたが、特異的阻害剤を使用した結果、p38MAPキナーぜがTNFαの産生に強く関与することが明らかになった。従って、ミクログリア活性化による細胞傷害性因子の産生は、PKCのシグナル伝達経路とその下流のMAPキナーゼによって調節される可能性が推測された。
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