研究概要 |
近交系マウスの一つであるCS系は,行動のサーカディアンリズムに他系統にはない特徴を示す.本研究課題では,CS系の体内時計機構における変異を調べることにより,哺乳類体内時計の複数振動体仮説を検証する目的から実験を行い,以下の結果を得た. 1.CS系の行動のサーカディアンリズムの恒常暗条件(DD)での特徴を詳細に調べた.それにより(1)フリーランリズムの周期が不安定,(2)自発的なリズムスプリッティング(リズム分割)を示す結果を得た.この結果からCS系の体内時計は,周期の異なる2振動体から構成され,振動体間の共役関係に変異がある可能性が示唆された. 2.CS系スプリッティングリズムの光反応性を調べた.その結果,分割した2つのリズムコンポーネントが異なる光位相反応を示した.このことからCS系の2振動体は異なる光位相反応性をもち,この違いにより体内時計の明暗同調が調節されることが考えられた. 3.CS系リズムスプリッティングが体内時計2振動体を示していることを確かめるために,スプリッティング時の視交叉上核(SCN,哺乳類の体内時計)の時計遺伝子(mPer1,BMAL1,Clock)発現リズムを調べた.その結果,行動リズムのスプリッティング(二峰性パターン)にも関わらず,SCNの時計遺伝子発現リズムは一峰性であった.しかしSCN以外の脳部位(大脳皮質)でのmPer1発現リズムは,行動リズムと一致した二峰性であった.このことからCS系のリズム変異は,SCNのこれらの時計遺伝子にはなく,むしろSCN振動体からの出力系にある可能性が示唆された. 4.現在,SCNの他の時計遺伝子(mPer2,mPer3)レべルおよび時計制御遺伝子(AVP)レべルのスプリッティングへの関与を確かめるために,スプリッティング時のこれらのリズムを調べている.
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