生後2日の新生児ラットの左側大脳皮質を選択的に吸引破壊して、成長後、左右脊髄に投射する皮質脊髄ニューロンと大脳皮質感覚野線維をそれぞれ異なる蛍光色素で標識して分布を調べた。残った片側の感覚運動野に左右それぞれの脊髄に投射するニューロンが重複しながら分散して広がり、感覚野からの線維が2〜3本の帯を作ってその領域の中を走っていた。さらにウレタンおよびケタミン麻酔のうえ、無傷の右側大脳皮質を露出し、左右前肢と小脳の左右の深部核にそれぞれ、おのおの独立に短い単一パルス刺激を繰り返し与え、誘発電位分布の時間的経過を8極同時記録システムを使った大脳皮質表面の多点記録および皮質層電位記録で連続して観測し、正常ラットの結果と比較した。皮質層分布の記録では、電流源密度に対する主成分分析を使った統計的要素分析により、皮質内の信号源の分離してその時間的遷移の解析を試みた。その結果小脳刺激では反対側刺激で運動野内の中層部の鋭い電流sinkで反応が始まり上層部に移動しながら周囲に広がる反応が認められたが、正常ラットとの明瞭な伝播の違いは見とめられなかった。一方、前肢刺激による感覚誘発電位では、正常ラットで反対側刺激誘発電位が皮質前方外側部位の下層部で始まり、上層部に移行しながら前方内側部位へ伝播し、同側誘発電位がその中間部位の主に表層部位から発現して周囲に広がる様子が明瞭に観察されたが、半球皮質破壊ラットでは同側前肢刺激による誘発電位は、表面電位分布でも、皮質層分布でもまったく観察されなかった。反対側刺激では正常ラットと同様の誘発電位分布が観察された。結果として、新生児期に大脳半球皮質破壊を受けたラットでは、右側運動野に分布する同側投射錐体路ニューロンは同側前肢自身からの求心性入力をほとんど受けていないことが確かめられた。重複しながら分散分布する左右前肢を制御するニューロン群が、おのおの独自のフィードバックシステムを持っていることが示唆された。
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