海馬は虚血に最も脆弱な部位として知られている。スナネズミに短時間の前脳虚血をかけると海馬CA1領域に限局した遅発性神経細胞死が見られ、この死はアポトーシス様の過程をたどる。虚血負荷前にアポトーシス抑制分子であるbcl-2をアデノ随伴ウイルスベクター(AAV-bcl-2)で海馬に過剰発現させておくと神経細胞死が有意に抑制され、さらに、虚血負荷後のAAV-bcl-2投与も虚血性神経細胞死抑制に有効であった。これより、Bcl-2遺伝子導入による虚血性神経細胞死抑制の可能性をアメリカ及び日本遺伝子治療学会で発表した。更に、CA1領域でのAAV-bcl-2 transfectionのtime courseの解析からBcl-2はCa^<2+>調節以外にも複数の神経細胞死抑制機能を持ち、遅発性神経細胞死の後期過程にも作用することを北米神経科学年会で発表した。 一方、短期虚血負荷による神経細胞以外の変化として海馬及び大脳皮質でのアストロサイトーシスをしらべたところ、アストロサイトーシスは虚血に最も脆弱なCA1領域で顕著であり、細胞死の起らないごく短期間の虚血負荷でも有意に増加することを確認した。さらに、虚血負荷により発現したアストロサイトの特徴としてグルタミン酸トランスポーター(GLT-1)の発現が少なく反対に熱ショック蛋白27(HSP27)の発現が増加していることを発見し、日本神経科学年会で発表した。
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