スナネズミに短時間の前脳虚血をかけると海馬CA1での遅発性神経細胞死がみられる。一方、虚血前に非致死的な虚血を与えておくと、3分〜5分の虚血負荷による遅発性神経細胞死が著しく軽減され、この現象は虚血耐性と呼ばれる。この時期には細胞内カルシウム濃度上昇抑制機構に変化が起きていることをカルシウムイメージング実験から確認した。細胞内カルシウム濃度上昇抑制機構について、Bcl-2の関与を考え、transgenic mouseでの虚血負荷後の細胞内カルシウム濃度上昇をwild tyupeと比較したが有意差は認められなかった。しかし、アデノ随伴ウイルスのBcl-2を組み込んだベクター(AAV-bcl-2)を作成し、虚血負荷による遅発性神経細胞死抑制効果を調べたところ、Bcl-2過剰発現部位での虚血負荷後の遅発性神経細胞死は有意に抑制され、Bcl-2の虚血精神系細胞死抑制効果は確認された。 また、短期虚血負荷後の神経細胞以外の変化として海馬および大脳皮質でのアストロサイトーシスをしらべたところ、虚血に最も脆弱なCA1領域で顕著であり、非致死的虚血負荷でも有意に増加することが判った。虚血負荷での反応性アストロサイトの特徴としてはグルタミン酸トランスポーター(GLT-1)の発現が少なく反対に熱ショック蛋白27(HSP27)の発現が増加していることがわかった。 一方、虚血負荷による遅発性神経細胞死後の海馬では、虚血負荷後3週間以降にCA3錐体細胞からCA1の生き残った細胞に向けて軸索発芽が起ることが免疫組織化学的実験から判明した。
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