条件恐怖刺激は、下垂体のバゾプレシン(VP)分泌を抑制し、オキシトシン(OT)とプロラクチン(PRL)分泌を増強し、行動活性を抑制する。本研究は、これらの情動ストレス反応を担う情動記憶の想起仮定において活性化されるNMDA受容体の脳内局在部位を同定することを目的として、予め条件恐怖学習を施した成熟雄ラットにNMDA受容体アンタゴニストのMK-801を条件恐怖刺激の30分前に脳内局所に注入し、恐怖反応の表出が阻害されるかどうかを調べた。対照群は生理食塩水を注入した。 1.扁桃体破壊:ニューロンを死滅させるために条件恐怖学習の訓練を行った翌日、神経毒であるNMDAを麻酔下で扁桃体に注入し、その1週間後に条件恐怖刺激を加えた。NMDA注入群では条件恐怖反応は阻害された。 2.扁桃体のNMDA受容体:条件恐怖刺激を加える30分前にMK-801を扁桃体に注入しても恐怖反応は阻害されなかった。以上1と2の結果から、扁桃体は条件恐怖反応の表出に必須であるが、扁桃体のNMDA受容体は関与しないことが示唆される。 3.延髄弧束路核(NTS):条件恐怖刺激を加える30分前にMK-801をNTSに注入した。VP反応は阻害されたが、OT、PRLおよび行動抑制反応は阻害されなかった。したがって、NTSのNMDA受容体は情動記憶の想起課程を担うものではない。 4.分界条床核(BNST):条件恐怖刺激を加える30分前にMK-801をBNSTに注入した。VPおよびPRL反応は阻害され、行動抑制反応は減弱した。BNSTのNMDA受容体が情動記憶の想起課程を担っていることが示唆される。
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