研究概要 |
キンカチョウの雄の幼鳥は、歌学習の臨界期に父親の歌を学習する。この歌学習に、アセチルコリンが深く関わっていることは、これまで私達が見つけた次の二つの実験結果から示唆されている。(1)歌を産生する大脳歌制御中枢において、AChとその合成酵素のChATの酵素活性が、一過性に増大している(Sakaguchi &Saito,1991)。(2)鳥の歌制御中枢へのコリナジック入力は、学習記憶に重要な役割を果たしていることが知られている哺乳類のマイネルト基底核と相同なVentral paleostriatum(VP)からきている。2つの代表的な歌制御中枢RAとHVCに投射しているVPのコリナジックニューロンはVPの前部と後部にはっきりとわかれて存在している(Li & Sakaguchi,1997).以上の事実をもとにして、VPの前部と後部に逆行性ニューロトレーサー・フロロレッドを注入して、その入力の由来を調べた。その結果、視床の2つの核nucleus ovoidalis(Ov)とnucleus dorsomedialis posterior thalami(DMP)から入力を受けていることが明らかになった。この時、VPのRA投射領域とHVC投射領域は、それぞれDMPの前部と後部、Ovの内側と外側とはっきりわかれた領域からの入力を受けていた。Ovは、哺乳類の内側膝状体と相同な聴覚中枢路の中継核であり、聴覚系がコリナジックシステムを介して歌制御中枢を制御していることを意味している。さらに、Ov→VP→RAとOv→VP→HVCの2つの経路が独立に存在していることは、アセチルコリンの歌学習に対する役割が、RAとHVCで違っている可能性があることを示唆している(Li,Zuo & Sakaguchi,1999)。歌学習へのコリナジック作用を明らかにするために成鳥で、RA投射VP領域の両側破壊を行ったが、歌に影響はなかった。現在、歌学習期のVP破壊実験にとりくんでいるが、片側破壊では、歌学習に影響がなかった。
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