研究概要 |
近年の遺伝子工学の進歩により、これまで不明な点の多かった脳の形成機序も次第に明らかにされつつある。しかしほ乳類の脳の発生に関しては、胎仔への外科的アプローチが容易でないため、受精卵レベルの遺伝子操作や組織培養に頼らざるをえない状況である。この問題を解決するため、われわれは子宮外手術法を用いてマウス胎仔の脳内に遺伝子を直接導入することを考えた。まず、脳の形態形成過程における各種分子の局在を免疫組織化学によりマウスおよびラット胎仔を用いて調べ、中脳ドーパミンニューロンの移動に神経接着分子L1と脳特異的コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるフォスファカンの相互作用が関係すること(Ohyama,Kawano,Kawamuraら、1998)、また転写調節因子Pax-6を欠損する突然変異ラットを用いてPax-6が大脳新皮質の神経路形成(Kawano,Takeuchi,Kawamuraら、1999)とニューロンの分化・移動(Fukuda,Kawano,Kawamuraら、2000)に重要な働きをすることを明らかにした。 これらの観察結果を基に、本研究では、子宮外手術法とそれに改良を加えた子宮内手術法を用いて、胎生12〜14日のマウス脳室内にアンチセンスDNAを微量注入し、数日間母体内で生育することに成功した。また、最終的にはLacZ遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを脳室内に注入し、それを取り込んだニューロンの移動経路を追跡するのに成功した。以上の結果は、今後特定のDNAを組み込んだウイルスベクターを導入し、脳の発生過程における各種遺伝子の機能を特定する実験を行うための重要な基礎となる。
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