研究概要 |
本研究では胎生後期(E16-21)のラット摘出脳幹ー脊髄標本を用いて,呼吸中枢の発達を主に電気生理学的に解析した.ネンブタール(40mg/kg,i.p.)麻酔またはエーテル麻酔下の妊娠ラットから胎児標本を摘出し,実験槽に置き,modified Krebs solutionで潅流した.C4/C5の頚髄前根から運動神経活動をモニターした.いくつかの標本では,横隔膜及び胸郭の一部を残し,横隔膜筋電図とC4活動の同時記録を行った.ブラインドパッチクランプ法により延髄腹外側部から呼吸性ニューロンの活動をホールセル記録した. E16からE19にかけて,発達に伴い,C4吸息性活動のピーク値は大きくなり,E19以降では,ほぼ一定に保たれた.一方E16-E19では,横隔膜収縮を伴わないC4活動(非呼吸性)も見られ,その大きさはE16で最大であり,1mVにも達した.E18以前及び多くのE19標本では,吸息性活動のパターンは,急峻な立ち上がり及び立ち下がりを示し,バースト持続時間は100-200msであった.これに対し,E21,E20及び一部のE19の標本では,吸息性活動は,急峻な立ち上がりとゆっくりとした立ち下がりを示し,バースト持続時間は400ms以上と長くなった.さらに後者の標本(E20-21,一部のE19)では,新生ラットと同様の呼吸性ニューロンのサブタイプ(吸息先行型,吸急性,呼息性)が延髄腹外側部において記録された.一方,この様なサブタイプはE18以前の標本では明確ではなかった.これらの結果は,ラット呼吸性ニューロンネットワークがE19-20で急激に発達し,E20で一応の機能的完成を見る事を示唆する.そこで,おおよそE19を境に,それより以前の短い吸息性バーストを示す呼吸性ニューロンネットワークを胎児型,それ以降の長い吸息性バーストを示すものを新生児型と呼ぶことにした.特にE19の胎児型ネットワークにおいては,1つのニューロン(吸息性)への脱分極刺激による活動電位発生によって,ネットワーク全体が活性化され,C4バーストが誘発される現象が見られることがあった.
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