Ca^<2+>/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)は、中枢神経系に豊富に存在する多機能型のプロテインキナーゼとして、神経活動の制御やシナプス可塑性に深く関わると考えられている。本研究においては、CaMKIIの主要なサブユニットであるαの遺伝子に"点変異"という機能的な欠損を導入したマウスを作製することにより、生体内におけるCaMKIIの果たす役割について新たな知見を獲得することをめざした。具体的には、CaMKIIαサブユニットの活性中心である42番めのリジン残基(Lys-42)をアルギニン(Arg)に置換した、不活性型のαCaMKII(Arg-42)を発現する変異マウスの作製を試みた。 まず、マウスTT2細胞株の遺伝子DNAライブラリーをスクリーニングして、マウスのαCaMKII遺伝子断片を得、制限酵素地図を作製した。これに基づき、αCaMKIIの活性中心であるLys-42に対応する核酸配列に1塩基変異を導入した相同組み換え用のターゲッティングベクターを作製した。これをES細胞に導入した後、G418薬剤耐性を指標に合計410個のES細胞クローンを選択した。PCR法とサザンブロット法によってこれらクローンのスクリーニングを行った結果、相同組換えによるαCaMKII遺伝子変異を持つES細胞クローン3個を同定した。現在、これらの細胞株をマウス8細胞期胚に注入することにより、キメラマウスの作製にとりかかっている。 今後は、作製したキメラマウスを交配することにより、αCaMKII遺伝子変異マウスを作製し、その機能解析を行う予定である。これによって、αCaMKIIの蛋白分子としての役割とプロテインキナーゼ活性の果たす役割とを区別して評価することが可能になるものと期待される。
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