研究概要 |
本年度は、姿勢筋緊張の制御における基底核-脚橋被蓋核-網様体脊髄路系の機能的役割の解明を試みた。実験には除脳ネコ標本を用い、この系の活動により誘発される運動行動の変化および、後肢筋支配α運動細胞に誘発される興奮性の変化について解析を試みた。得られた結果は以下の3点に要約される。 (1) 脚橋被蓋核腹側部に加えた微小電気刺激や同部位への興奮性アミノ酸(NMDA)の注入により除脳ネコの四肢筋活動は減弱・消失した。この効果は脚橋被蓋核へのGABA作動薬(muscimol)の注入及び橋網様体へのatropine注入によりブロックされた。また、GABA拮抗薬(picrotoxin,bicuculline)を脚橋被蓋核に注入すると自発的に筋活動は消失した。 (2) 脚橋被蓋核背側部に微小電気刺激を加えると歩行運動が誘発された。また同部位へのピクロトキシン注入は自発的歩行運動を誘発した。しかし歩行運動は橋網様体へのアトロピン注入によりブロックされなかった。 (3) 脚橋被蓋核腹側部に加えた電気刺激は後肢伸筋および屈筋支配α運動細胞にシナプス後抑制効果を誘発した。この抑制効果は同部位へのmuscimolの注入によりブロックされ、picrotoxin,bicucullincの注入により増強した。一方、橋網様体へのatropinc注入はこの抑制効果をブロックした。 これらの成績は、基底核からのGABA作動性投射は、脚橋被蓋核腹側部のコリン細胞を介して姿勢筋活動レベルを、また脚橋被蓋核背側部の非コリン細胞を介して歩行運動を制御することを推定させる。従って、基底核は脚橋被蓋核を介して脳幹・脊髄の運動中枢の活動を調節し、姿勢筋活動とリズム運動の統合制御に関与することが明らかとなった。
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