研究概要 |
本年度は、室頂核をムシモールで不活性化しその結果生じる眼球運動障害の詳細を調べた。1993年以来、室頂核の不活性化により注入側へ向かう視覚性サッケードがオーバーシュートを示すことが知られ、これはサッケードゲインの増大と解釈されてきた(Robinson et al.1993)。しかし、1998年にオーバーシュートがサッケードの大きさや初期眼球位置によらず一定であるとの報告がなされ、室頂核はバーストジェネレータの活動を修飾するのではなく、サッケードの目標位置の特定に関与するとの仮説が提唱された(Goffart and Pelisson 1998,Goffartand Sparks 1998)。本年はどちらの仮説を支持する結果が得られるかに焦点を絞って実験を行った。 実験には、アカゲザルを用いた。覚醒状態でスクリーンのいろいろな位置に標的を提示し視覚性サッケードを行わせた。数回の実験でサッケードに関連したバースト活動を示す室頂核ニューロンを記録し、これらが記録される部位にムシモールを注入した。 これまでの報告と同様に、注入側へのHypermetric saccade,反対側へのHypometric saccadcが観察された。Fixationoffsetは観察されなかった。サッケードの水平振幅を初期水平網膜誤差に対してプロットすると、両者の間に明らかな直線関係が認められた。注入側へのサッケードでは、傾き1.7、y切片4度の回帰直線が得られ、Hypermetriaはサッケードゲインの増大とみなされた。また、様々な水平眼球位置からある決まった位置へのサッケードを多数集めたところ、オーバーシュートは一定ではなく、網膜誤差が大きいほどオーバーシュートも大きいことが確認された。本研究の結果は、室頂核がバーストジエネレータの活動を修飾するという仮説に矛盾しない。
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