解剖学的手法と、多電極記録による電気生理学的方法により上丘と小脳の機能の相関について調べて来た。特に、解剖学的解析において、大きな成果を上げた。上丘から小脳への投射は、従来下オリーブ核を経由して、登上線維によってなされることは知られていた。しかし、登上線維が、どのような投射パタンをとるのかは明らかではなかった。本研究では、ラットの下オリーブ核にビオチン化デキストランを細胞外微小注入して投射軸索を標識し、単一軸索再構築法により34本の単一軸索を完全に再構築した。これにより、単一下オリーブ核ニューロンの軸索は枝分かれして約7本の登上線維になり、小脳皮質の縦の帯状の微小区画(「セグメント」)に投射すること、またほとんどの場合小脳核の微小部分に投射する軸索側枝を持つことを明らかにした。上丘から小脳皮質への投射は、下オリーブ核内の内側副核の後ろ半分の内側のニューロンによって中継される。これらのニューロンの投射先は、小脳虫部の第6・7小葉であり、ここの縦の細い帯状範囲に投射した。ここに近接する第1〜5小葉、第8小葉は、内側副核の外側のニューロンの投射を受け、四肢に関係した機能を持つと考えられた。また、平行して、登上線維以外の小脳皮質の主要入力である苔状線維の単一軸索の全走行の形態を明らかにした。単一苔状線維は、横方向に大きく広がり、多数の帯状範囲に投射していた。これらの結果は、小脳の動作様式の理解に不可欠な情報である。さらに、小脳の機能区分は入出力線維の構築によって決定されることから、これらの結果は、小脳の機能的微細区画構築の理解にも役立つ。
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