研究概要 |
新たに開発したin vivoパッチクランプ法を用い、末梢皮膚刺激によって誘起されるシナプス応答を脊髄後角細胞から記録解析した。ウレタン麻酔下にラットの気管切開を行い人工呼吸とした。両側を気胸とし、呼吸に伴う脊髄の振動を極力抑えた。動脈圧、体温をモニターした後、L4,L5腰髄の椎弓切除を行い脳・脊髄固定装置に固定した。先ず、後角第二層の膠様質から記録をおこなった。記録した全ての膠様質細胞は固定電位-70mVで自発性のEPSCが記録された。また、固定電位0mVでは自発性のIPSCが記録された。それらの振幅および頻度はスライス標本を用いて得られた結果と有意な差はなかった。次に、固定電位-70mVで皮膚刺激を加えると、記録した全ての膠様質細胞で痛みおよび触刺激によってEPSCの頻度と振幅が著明に増加した。後肢の刺激部位を変えて受容野を調べたが、今までの結果とは異なり、指先から大腿部に至る広い受容野を示した。更に、熱刺激に対する応答を調べたが、全ての細胞で熱刺激によっては何ら応答は観察されなかった。次に、膜電位を0mVにし刺激を行うと、触刺激によってIPSCが誘起されたが、痛み刺激ではIPSCは誘起されなかった。スライス標本で得られた結果から、熱情報を伝える無髄のC線維は深部の層に終末していると考え、膠様質より深部の細胞から記録をおこなった。深部の細胞は触刺激にのみ応答を示すものと触、機械的痛みおよび熱刺激に応じる、いわゆる広作動域ニューロン(WDRニューロン)が記録された。一部のC線維はペプチドを含有している事が知られているが、何れの応答も速い応答、すなわちfast EPSCのみによって伝えられ、ペプチドを介するslow EPSCは全く観察されなかった。 以上の結果から、膠様質細胞は機械的触および痛み感覚を受容し、熱情報は3層以下の深部の細胞に伝えられていることが明らかになった。
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