研究概要 |
Marrによる三次元物体を脳で再構成するための計算理論によれば,面と軸の三次元的な傾きを検出する事が第一のステップとして重要であることが指摘されている.面の傾きを識別するための神経機構を調べるために,単眼性の奥行き手掛かりや,両眼性の奥行き手掛かりによって面の傾きを表現する立体図形とランダムドットステレオグラム(RDS)をコンピュータグラフィクスで作成し,シリコングラフィクスIndigo2を使って,偏光フィルター取り付けた立体ディスプレイに呈示して頭頂連合野ニューロンの反応を調べた.サルにはGo/No-goタイプの遅延見本合わせ課題を訓練し,偏光眼鏡を通して左右の目に別々の刺激を呈示する事で刺激を立体的にみせ,見本刺激と数秒の後に呈示されるサンプル刺激の面の傾きが同じならGo反応,違っていたらNo-go反応をすることで面の傾きを識別させる.今年度の研究では特に両眼視差信号の重要性を調べるために1.傾きによって見えの変わらない(透視画法によらない)立体図形と2.そのRDSを使って,頭頂間溝外側壁後方部のCIP領域から単一ニューロン活動を記録し,その性質を調べた.その結果,この領域から純粋に両眼視差信号によって立体図形の面の傾きに選択的に反応するニューロンが見つかった.このような面の傾きに選択的に反応するニューロンの中には1.RDSによる立体図形の面の傾きに対して選択的に反応するニューロンや,2.輪郭部分の視差(方位視差,幅視差)だけを使って面の傾きを判断しているニューロンがあった.前者のニューロンは純粋な視差の勾配から面の傾きを識別していると考えられるが,これは前述したMarrの計算理論の中で指摘されている可能性の一つを,実際のニューロンレベルで検証した初めての例である.視差勾配の検出,方位視差,幅視差の検出のためには視差情報の階層的な処理機構が必要であり,CIP領域にはその情報を統合して面の傾きを識別する最終レベルの神経機構があることを示唆される.
|