実験動物としての霊長類はよりヒトに近縁であるという点で非常に優れた実験動物である。この利点をin vitroでの研究にも活かすために、サル大脳皮質神経細胞初代培養を試みた。繁殖・飼育に特殊な技術を要する霊長類由来の胎仔は非常に希少性の高い材料であり、新鮮な大脳組織を頻繁に入手することは不可能に近いので大脳組織の凍結保存を行うことが望ましい。そこでまず、初代培養神経細胞の材料として最も頻繁に利用されているラットを用いて凍結保存の技術検討を行った。その結果、胎仔より得られた脳組織を1mm以下の小片にし、10%DMSO含有培養液を凍結保存液として-80℃まで緩除凍結(-1℃/min)の後、液体窒素にて凍結保存し、急速解凍後は消化酵素であるpapainを用いて32℃にて細胞分散を行い、同温度で遠心洗浄した後、初代培養を行う方法が最適であった。形態学的に凍結保存の影響を検索したが、顕著な差はみられず、新鮮材料から得られる細胞数に対し20-30%の細胞が回収可能であった。次にこの結果をカニクイザル胎仔に応用した。初代培養の材料としての最適胎齢を決定するため80、93、102日齢の胎仔を用いたが、形態観察の結果80日齢の胎仔が最も適していた。初代培養下で神経細胞は数本の突起を伸張し、培養日数が経つにつれ成熟した形態を示した。カニクイザルの場合も、ラットと同様に凍結保存の影響はみられなかった。高密度に培養することによりシナプスを介した細胞間で同調した自発的発火が観察された。つまり、カニクイザル胎仔由来の神経細胞は初代培養下でシナプスを介したネットワークを形成することが確認された。また、DNA合成阻害剤により増殖性の細胞を除いた結果、高純度の神経細胞の選択培養が可能であった。本研究によりサル大脳皮質神経細胞の初代培養系を安定して作出することが可能となった。
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