研究概要 |
G:C→A:Tトランジション突然変異の原因となるDNA中のO^6-メチルグアニンはO^6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT蛋白質)によって修復される。今年度は実際に臨床で用いられているアルキル化抗癌剤がMGMT遺伝子欠損マウスにどのような影響を与えるのかを、急性毒性,造腫瘍性を指標に野生型マウスと比較し,この遺伝子欠損に起因するアルキル化抗癌剤へのリスクを個体レベルで評価した。ダカルバジンを投与した場合、個体レベルでの感受性をLD_<50/30>の値で比較するとMGMT遺伝子欠損マウスは野生型マウスに比べて約20倍感受性が高いことが示された。また、造腫瘍性においでも数倍の差がみられた。この結果は、ダカルバジンによってDNA中にO^6-メチルグアニン(とO^4-メチルチミン)が生じること、それがこの抗癌剤の作用機序のひとつであることを強く示唆していると同時に、O^6-メチルグアニシ-DNAメチルトラシスフェラーゼが(アルキル化抗癌剤に起因する副作用を)個体レベルで抑制していることを示している。MGMT遺伝子欠損は生存、繁殖能力等に影響を与えないことから、ヒト集団中にMGMT伝子を欠損している個体が存在する可能性は高い。アルキル化抗癌剤に対する個体レベルでの感受性がMGMT遺伝子の遺伝子型によって決まっている、という事実は、現在「体重あたりあるいは体表面積あたりで一律に決定されている」ヒトへの薬剤投与量は「薬剤に対する感受性はヒトそれぞれで異なり,遺伝子型をはじめとする使用前の検査によってそれぞれの最適量を決定すべきである」という、一歩進んだ考え方の必要性を示している。今後、日本人集団中のMGMT欠損個体の存在比率を把握し、臨床の現場で実際に用いることができる様、ELISA/モノクローナル抗体等を用いた簡便なアッセイ法の確立が望ましいと考えている。
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