本研究は、我々が発見し育成している自然発症てんかんラットWER(Wakayama Epilepsy Rat)系統を用いて、モデル動物としての評価およびWERラットを用いたてんかん発症機序の解明のために行われている。本申請研究において、発作時脳波をはじめとする記録システムの構築を行い、WER系統ラットは、同一個体において欠神様発作と強直性発作を自然発症し、それぞれ棘徐波脳波(平均5.1Hz)と低振幅高周波の脳波を示すことを明らかにし、それらの発作時脳波はヒトのてんかん時脳波と良く類似することを明らかにした。また、その症状発症時期は、25日から70日齢の間であり、その後は安定して発作を起こすこと、その時期にのみ大発作によると推される突然死が認められること等も明らかとなった。遺伝様式の解析の結果、発作の発症は常染色体性単純劣性通伝子による支配を受けることが明らかとなった。また、その浸透度は約86%であり、WER系統の育成とともに浸透度の上昇が認められたことから、微少な効果を持つ関連遺伝子群の存在が推察された。 本てんかんラット系統は、両タイプの発作を示し欠神様発作時に5Hz前後の棘徐波を示すなど、優れたてんかんモデルであるSER、TMラットに似た症状を発症するが、一方で、中枢における空胞形成や生殖器官などの形態異常が認めらず、これらの責任遺伝子であるとされるaspartoacylase geneとは異なる新たな遺伝子による発症と考えられる。その他、繁殖に問題が無く少なくとも18ケ月齢まで安定して発作を繰り返すなど、WER系統ラットは、てんかん発症機序や脳の可塑性の研究に有用なモデル動物であることが明らかにされた。
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