研究概要 |
生体の筋・神経系は冗長性を有しており,筋を構成する各運動単位への機能配分は随意運動の際何らかの原理に従って動的に行われていると考えられる。この原理は運動単位が有する時間構造感受性(例えばCatch property)を利用または回避していると考えられるので,この原理の推定を機能的電気刺激への応用を念頭において行うため,我々は以下の実験的検討を行った。まず,健常人の腓腹筋内側などを対象として,随意的筋収縮の度合を階段的に増加,減少,または一定にしたときの筋活動電位を筋肉に留置した微小間隔の双極電極で計測し,その波形を解析して異なる運動単位から生じたと思われる波形を弁別し,同じ張力の発生が状況によって異なる運動単位で生成されていることを確認した。また,筋疲労によっても運動単位の機能配分が起きていることが示唆された。次に,筋が刺激パルス列の時間構造に対して有する感受性について,周期的インパルス刺激に伴って筋小胞体から放出されるカルシウムイオンの筋漿内における濃度が二つの安定平衡点を有することをモデルを使って表現し,Catch-like propertyの説明を試みた。 今後はこのモデルを分布的に集成した筋神経系のモデルに発展させて,実験で観測される時間構造感受性との比較検討を行う予定である。我々はまた,随意的筋収縮に伴って観測される筋電図を運動単位活動電位に分解するための基礎技術として,ウサギの感覚末梢神経束近傍で観測される集合電位の,波形による分解に関する検討を行い,階層的クラスター分析や作成した評価関数を用いたグループ化の方法を提案した。この方法は,独立成分分析と合わせて用いることにより,運動単位活動電位の分解に有効である。
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