研究概要 |
薄膜(全反射)X線回折法のシステムを構築し,これを駆使することで高分子材料表面での微細構造の解析を開始した。この手法では,表面に対して小さな角度でX線を入射し回折を表面に限定することで構造解析を行うことができる。まず,アイソタクチック・ポリプロピレンの成形フィルムに対して解析を行ったところ,熱処理の条件に関わらずフィルム表面において結晶化度が低く,微結晶の細分化されていることを見出した。特に,表面からサブミクロン領域までにおいて構造変化が顕著であることを初めて明らかにすることができた。これは,材料表面で分子鎖末端,欠陥,不純物の濃縮が生じていることに基づくと考えられた。また,成型時に表面には圧縮の応力が残留し,この応力が熱処理により緩和して行く過程をX線的に捉えることに成功した。次に,同じくポリ-α-オレフィンであるアイソタクチック・ポリブテン-1について検討を行ったところ,II型結晶からI型結晶への転移が表面でより速やかに生じることを見出し,表面での分子鎖の高い分子運動性が示された。これらの高分子は生体材料として広く用いられることから,材料表面の構造に関するこれらの知見は有用である。さらに,今後,生分解性高分子材料(ポリ乳酸等),生体適合性材料の表面をX線的に検討して行くと共に,高分子薄膜,積層膜の表面・界面構造さらには,高分子ブレンドフィルムについても解析を進める予定である。また,超臨界二酸化炭素を利用した表面修飾を現在進めており,この状態での化学反応,成形を経ることによる新規材料の創製,表面の生体親和性の向上を図るとともに,その構造をX線的に検討して行く予定であり,現在のところ順調に当初計画が達成されつつある。
|