研究概要 |
薄膜(全反射)X線回折法のシステムを用いて,高分子材料表面での微細構造の解析を行っている。この手法では、表面に対して小さな角度でX線を入射し,回折を表面に限定することで構造解析を行うことができる。昨年度は,アイソタクチック・ポリプロピレンの成形フィルムについて解析を行い,得られた成果はPolymer Engineering & Science誌に学術論文として掲載された。さらに,生体材料として用いられる,同じくポリ-α-オレフィンの一種のアイソタクチック・ポリブテン-1について,結晶転移が材料表面で加速されることを見出した。この点については,本年度,表面に残留する応力が結晶転移を促進していることを見出し,現在,学術論文投稿の準備を進めている。本年度は,薄膜X線法でしか解析することのできない,高分子薄膜についての検討を進めた。材料としては,生体適合性に優れるポリビニルアルコールを取りあげた。ポリビニルアルコールについて厚さ6nm〜600nmの薄膜を作製したところ,膜厚の減少に伴い結晶性が低下し,6nm以下の膜厚の試料ではもはや結晶化しないことを見出した。このことは,制限された空間内で高分子鎖のコンフォメーションが変化したことを意味している。さらに,表面だけでなく,高分子薄膜/高分子薄膜の界面での高分子の構造についてもX線回折法を用いて明らかにすることができている。今後は界面構造についてより詳細な検討を行ってゆく予定である。 さらに,今後,生分解性高分子材料などの表面をX線的に検討することで,界面化学的な観点より生体適合性に優れた表面に関する知見を得て行く予定であり,現在のところ順調に当初計画が達成されつつある。
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