研究概要 |
関節の潤滑メカニズムの解明には,その摩擦測定が有力な手段となる.そこで,垂直多関節型ロボットアーム(三菱電機RV-E2)を主要な装置として,動物関節の摩擦測定システムを構築し,関節の病態や関節に加わる力学条件の変化といった,様々な潤滑に関わる因子の関節摩擦への影響について検討した. 測定手順を,摩擦面の認識動作と摩擦測定動作の2段階で構成した.いずれの動作も,摩擦面に加わる荷重を6軸力覚センサ(JR3,UFS2012A5)で検出し,それを制御信号としたフィードバック制御のもとで動作させた.摩擦面の認識動作においては,3次元形状測定を行い,関節の表面形状データを制御コンピュータに記憶した.それをもとに,測定段階におけるスムースな摩擦動作を実現した. 実験対象として成熟ウサギ膝5関節を用い,半月板を含む周囲の軟部組織をすべて切除した.実験条件として,(1)無侵襲(できるだけ正常に近い状態),(2)表面を生理的食塩液で洗浄(関節液の除去と軽度の表面損傷状態),(3)ヒアルロン酸(HA)添加(関節液物性の回復状態)の3種類の表面の状態について,荷重直後と静止荷重5分間後の起動摩擦係数を測定した.荷重はいずれも10Nとした. 荷重直後の条件では,摩擦係数が,(1)0.019±0.007,から(2)0.030+0.008に上昇し,(3)0.026±0.012と回復した.荷重5分間後の摩擦係数は,(1)0.258±0.122から(2)0.292±0.140に上昇し,(3)0.222±0.110まで低下した.この結果から,荷重時間が長い場合に,HAの効果が大きくなることが明らかになった.HAの効果の存在は,荷重時間による摩擦の増大が,流体潤滑膜の押しつぶしによるものであることを間接的に示し,さらに,関節の潤滑における流体潤滑膜の役割の大きさを示した.
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