研究概要 |
本年度は,関節表面間に介在する流体の粘度を変えることが,荷重時間に依存した起動摩擦の増大速度にどのように影響するかを,ロボットアームを組み込んだ摩擦係数測定装置を用いて定量した.起動摩擦の大幅な増大は,関節炎の発症プロセスにつながると予想されるので,正常関節以外に関節液が変性したモデルとして,1)関節液を拭い去り生理食塩液に置き換えて関節液の粘度を低下させた状態,さらに,2)関節炎の治療に多く用いられているヒアルロン酸ナトリウム(以下HA)を塗布して粘度を上昇させた状態について一定時間荷重後の起動摩擦を測定した.実験には日本白色ウサギ5羽6膝関節を用い,関節表面の状態を,1)関節を切り出した直後(無侵襲状態),2)生理食塩液で洗浄,3)関節表面にHA水溶液を塗布の3種類の条件とし,静止荷重直後と300秒間加えた後の二つの荷重条件で,起動摩擦係数を計測した.測定動作は,水平直線運動のみとし,起動後の摩擦速度を0.5mm/sとした.荷重の大きさは,静止時,摩擦時とも10N一定とした.その結果,静止荷重0sにおける無侵襲の摩擦係数(平均値±標準偏差)は0.015±0.002であった.洗浄後は0.023±0.010と有意に上昇した(P<0.05).さらにHAを塗布することで0.019±0.010と減少した.静止荷重300sにおける無侵襲の摩擦係数は0.25±0.12であり,洗浄後は0.31±0.13と有意に上昇した(P<0.05).さらにHAを塗布することで0.22±0.10と有意に減少した(P<0.05). これにより,ウサギ膝関節において表面間に介在する流体の粘性が,関節における摩擦に影響を及ぼすことを明らかにした.また,関節における潤滑機構におけるスクイズ膜潤滑の役割の大きさを示した.
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