本研究は親水性ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)と疎水性ポリスチレン(PSt)とが16nmのオーダーで交互に規則的に並ぶラメラ状のミクロドメイン構造を有するPHEMA-PSt-PHEMAABA型ブロック共重合体(HSB)表面でのリンパ球の細胞死の阻止機構の解明を目的とした。対照群として、疎水性の均一表面のPSt、親水性PHEMAと疎水性PStが均一に分散している構造表面のPHEMA-PStランダム共重合体を用いた。平成10年度はHSB表面に粘着及び接触したリンパ球の形質膜グリコカリックス(GC)の微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。さらに、ノイラミニダーゼ(NR)処理により形質膜GCからシアル酸を除去したときの接触リンパ球の超微形態変化をTEMにて解析した。また、細胞のミトコンドリアの膨潤は、細胞壊死の不可逆性を意味すると考えられていることから、この接触リンパ球細胞内のミトコンドリアのサイズを画像解析し定量的に評価した。さらに、NR処理及び未処理での粘着リンパ球の形態変化をSEMにて解析した。結果として、(1)HSB表面に粘着及び接触したリンパ球の形質膜GC及び細胞内の微細構造は正常リンパ球のそれと同様に良好に保持されていた。一方、対照群のポリマー表面に粘着及び接触したリンパ球はすでに激しい壊死を生じており、そのGC及び細胞内の微細構造の観察は不可能であった。(2)NR処理した接触リンパ球はすべてのポリマー表面において、正常リンパ球と同様に細胞内が良好に保持された球状形として観察された。また、このリンパ球のミトコンドリアのサイズは正常リンパ球のミトコンドリアのそれと同じであった。NR未処理でHSB表面に接触したリンパ球のミトコンドリアのサイズも正常リンパ球のミトコンドリアのそれと同じであった。(3)NR未処理のリンパ球は、HSB表面では球状形であるのに対して、対照群のポリマー表面では線維状構造として粘着していた。一方、NR処理したリンパ球はすべてのポリマー表面に球状形として粘着していた。以上のことから、HSB表面のミクロドメイン構造表面はリンパ球の形質膜の微細構造を正常リンパ球のそれと同様に安定に保つことによりリンパ球の壊死を抑制することが示された。
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