ポリスチレン(PSt)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)-PStランダム共重合体(HSB)表面に粘着及び接触したリンパ球は激しい壊死(ネクローシス)を生じるのに対し、親水/疎水型のラメラ状のミクロ相分離構造を有するPHEMA-PSt-PHEMA ABA型ブロック共重合体(HSB)表面では粘着及び接触リンパ球のネクローシスを抑制する。本研究では、HSB表面のリンパ球のネクローシス抑制機構を解明するために、1)HSB表面に粘着したリンパ球及び接触したリンパ球の形質膜グリコカリックス(GC)の微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。2)形質膜糖蛋白質のシアル酸を除去した場合のHSB表面に対する粘着及び接触リンパ球について走査型電子顕微鏡(SEM)及びTEMを用いて解析した。さらに、リンパ球全体及びそのミトコンドリアのTEM像を画像処理解析装置(IA)を用いて定量的に解析した。3)リンパ球形質膜のSurface Immunoglobulin(SIg)のCapping形成を阻害した場合のHSB表面に対する粘着リンパ球をSEM及びTEMを用いて解析した。さらに、リンパ球全体及びミトコンドリアのTEM像をIAを用いて定量的に解析した。リンパ球の形質膜GCはルテニウムレッドにて染色した。リンパ球形質膜糖蛋白質からのシアル酸の除去はneuraminidaseを用いた。また、リンパ球形質膜のSIgのCapping形成阻害にはDimethyl sulfoxide(DMSO)を用いた。材料とリンパ球との相互作用はマイクロスフィアカラム法を用いて行った。HSB表面に対するリンパ球形質膜GCの微細構造は正常リンパ球のGCと同様に良好に保持されていた。シアル酸を除去したリンパ球は全ての材料表面で球状形で、ミトコンドリア等の細胞内小器官は良好に保持されておりネクローシスは抑制されていた。SIgのCapping形成を阻害したリンパ球は全ての材料表面で球状形でありミトコンドリア等の細胞内小器官良好に保持されておりネクローシスは抑制されていた。以上の結果から、HSBの親水/疎水型のラメラ状のミクロ相分離構造表面はリンパ球形質膜の構造と機能を安定に保つことにより、リンパ球のネクローシスを抑制することが示された。また、HSBのリンパ球のネクローシス抑制には、ラメラ状のミクロ相分離構造が大きな役割を果たしていることが考えられた。
|