眼電位図(EOG)は眼科領域で臨床検査に応用されているが、その電位は電極位置や電極の種類、被験者など種々の要素で変動し、電位の絶対値を測定することは極めて困難である。そのため、臨床検査では眼球を動かしたときの直流電位の変化分を直流増幅器で増幅して用いている。これまで、眼球を角膜側が陽性で網膜側が陰性の電池としてモデル化し、眼球周辺の種々の位置の電位を計算する手法を提案してきたが、本研究では、EOGの種々の特性を実測し、その特性を電池モデルによって模擬した。 これまで、電極の位置の違いによる電位の差異は、眼球周辺組織の導電率の値を実測値に設定し、角膜から網膜へ眼球外を流れる微少電流を数値的に調節することによつて、計算値を実測値によくフィットさせることができることを実証してきた。本研究では、視線中心を右寄りまたは左寄りに偏らせ、その近辺で眼球運動をさせたときのEOG特性を測定し、得られた視線中心位置の違いによるEOGの特性の違いを検討した。その結果、これらの特性は電池モデルでよく模擬できることが検証できた。また、他眼から測定眼への漏れ電位の特性(クロストーク)もモデルでよく計算できることを確かめた。 眼球の電池モデルによる計算では、角膜直上の電位が最大であることが計算される。これを検証するため、EOG電位の絶対値を測定する試みを行った。閉眼状態で瞼の上から角膜直上位置と外眼角、内眼角に1個ずつ電極を糊付けして電位を測定した。その結果、瞼の上の電位が最大であるという予測通りの傾向を示す測定結果が得られた。 これまでの研究成果から、眼球運動幅とEOG電位振幅は、眼球運動幅が±40°程度以内では比例関係にあるということが種々の角度から検証されたので、これらの解析に基づき、EOG特性研究の本来の目標である「視力障害者のEOG測定」を試み、その成果をまとめて報告した。
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