本年度は、プラトン書簡集関係の文献をそろえると共に、プラトニズムと数学の関係をめぐる考察の端緒をプラトンと親交が深かったと伝えられるタラスとピュタゴラス学派を代表するアルキュタスに焦点をあてつつ、その残存する断片の検討をすすめた。アルキュタスは、プラトン第七書簡にも言及されているが、また、プラトンからアルキュタスにあてた書簡、またアルキュタスからプラトンにあてられた書簡も残存するが、その偽作の可能性をめぐる論争も前三世紀から続いており、その論争の根底には、プラトン哲学の独自性をめぐる見解の相違があった。即ち、プラトン的思想のオリジナリティーを信ずる立場からは、アルキュタスの断片は偽作とみなされ、また、ピュタゴラス学派の影響を強く反映する思想体系としてプラトン哲学を位置付ける立場からは、アルキュタスの断片は真正とみなされるのである。この視点の相違が、アルキュタスの断片の伝承過程においても確かに看取されることをアルキュタス断片B1を伝えるポルフュリオス、ニコマコスの引用断片を比較検討しつつ論証し、加えて、アルキュタス断片B1の実質的意図をプラトン作品集に散見される関連箇所と比較検討しつつ、数学諸学科の各々の位置付け、宇宙論的ビジョンの描出と哲学の関係を詳しく考察し論文にまとめた。
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