プラトニズムと数学の関係を、その歴史的生成の場面において再構成する作業において、昨年度はアルキュタスの断片に焦点をあて考察を加え、プラトンの五つの数学的諸学科の枠組とアルキュタスに代表されるピュタゴラス学派のその枠組の内的連関を、現存する文献資料に基づき再構築を試み論文にまとめ発表した。本年度は、引き続きThesleffが編集したピュタゴラス偽文書の断片集を精読調査しつつ、それらの文書が諸家が断定するように偽作のレッテルを付すべきものなのか否か、プラトン書簡集に新たな視点から解釈を加えつつ、プラトンの哲学的思想基盤と数学的諸学科の接点の発端のありかを探る試論を論文にまとめ発表した。十三通現存するプラトン書簡集の中で、かかる問題に対して何らかの手がかりを与えるものは、第七書簡に加えて特に第二書簡および第十三書簡が挙げられよう。これらの書簡もまた、近年においてはプラトンの名をかりる偽作と見なされる傾向にあり、その内容に対して吟味を加える作業は控えられる現状だが、本研究において筆者は、文献学的な意味における書簡の真偽問題は必ずしも書簡の内容の真相には直結しないことを前提に据え置き、ディオニュシオス二世の宮廷で繰り広げられたプラトン、ピュタゴラス学派、ディオンらの政治的駆引きの場に、プラトニズムと数学の関係の端緒を抽出した。
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