セルフヘルプ・グループ運動はアルコール依存をはじめとする何らかの個人的な悩みを抱えた人々のための、本来世俗的な運動である。しかしこの運動は、歴史的にも、集団心理的にも、宗教運動としての性格を具備しているといえる。また、この運動が単なる慰め合いや傷のなめ合いを越えて、総体として現代人に提示している倫理・宗教思想を明らかにし、その意義を検討することが、本研究の目的であった。この点について従来の社会学的・社会福祉学的な立場からの研究は明らかにしていなかったからである。 調査者は、関東甲信越地区のAlcoholics Anonymous(アルコール依存症者匿名断酒会)に参与観察を続ける一方、国内外の他のセルフヘルプグループの定期刊行物や書籍、米国における多くの先行研究を収集し、読み込みをおこなった。運動としての影響力も検討するために、米国ミネソタ州のHazelden Foundationにて参与観察、聞き取り調査をおこなった。同じ近代資本主義の影響下にありながら日米間に存在する差を検証することを目指していたが、本年度内にはそのすべてを明らかにすることはできなかった。 セルフヘルプグループの意義については、近代社会の変動に応じて自己のありかたが変容し、それを受けて「霊性」の含意がどのように変容したかという問題と併せて検討した。調査者は特に、グループの特性やメンバーの心理と深く結びついた形で「霊性」があらわれるメカニズム、グループ内の人間のサイクルとグループ外部への倫理的行動の発現、断酒前後のグループメンバーの自己像の特異性に注目し、フロイト以後の精神分析思想の研究を踏まえて分析した。その成果は博士学位請求論文として東京大学に提出され、博士(文学)の学位を得た。また、平成12年夏に、国内および米国での研究発表が予定されている。
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