1.『太平記評判秘伝理尽鈔』(『理尽鈔』)の政道論を分析し、それが建設途上にある幕藩制国家の施策にどのような影響を与えたのか、思想家や民衆にどのような影響を及ぼしたのかを考察した著作『「太平記読み」の時代』を、本年度の6月に上梓した。これは従来乖離してきた諸研究((1)儒学・思想家研究、(2)民衆思想史研究、(3)仁政イデオロギー論を含む幕藩領主の意識・思想の研究)を統合する新たな思想史を、「太平記読み」を基軸として構築しようとしたもので、これにより思想史研究は新段階に入ったといえる。 2.『理尽鈔』の影響下で作成された書籍や『本佐録』・『東照宮御遺訓』の写本の調査は、引き続き継続中である。この方面における本年度最大の収穫は、長野県上田市立図書館所蔵『東照宮御遺訓』(『松永道斉聞書』)の発見である。この書物は、貝原益軒が改訂を加える際に用いた原本の系統を引く写本であり、やはり同系の写本である内閣文庫所蔵本、別系統の写本である岡山大学池田家文庫本、昨年発掘した島原松平文庫本(益軒改訂本と原本との中間に位置する写本)等と校合することによって、益軒改訂の原本を推測することが可能となり、『東照宮御遺訓』の形成過程に迫ることができた。 3.『本佐録』については、その内容を『理尽鈔』と比較対照することによって、『理尽鈔』に拠っていることを論証することができた。 4.『理尽鈔』関連書籍及び『本佐録』・『東照宮御遺訓』の調査結果をパソコンに入力し、データベースを作成中である。
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