本研究は、一八世紀初頭に誕生したイギリス風景式庭園の誕生前史、および現代的影響を美学思想史的に解明する。それにより近代美学の理解を深め、近代自然観や現代の景観設計の批判的考察を目指す。具体的には、従来行ってきた一八世紀イギリス庭園論の精査を継承・発展しつつ、以下の二つの庭園思想を文献実証的・思想史的に研究、その内的論理を剔刔する。(1)風景式庭園誕生をもたらした一七世紀イギリスの庭園論、特にピューリタン革命期の科学思想に関係する庭園(農業・園芸)書。(2)一九世紀における風景式庭園の変質を示すレプトンとラウドンの理論。現代的意義を考える際に必須の田園都市、ランドスケープ・アーキテクチャーに関する理論。 平成10年度は、主に一七世紀イギリスの庭園論を、その政治的文脈も顧慮しつつ、以下の3項目に亙り研究した。(1)一七世紀初頭のキリスト教神秘主義(就中ホーキンズ)と新ストア主義(リプシウス)の伝統的庭園観。(2)その閉ざされた庭を世界へと開く原動力となったピューリタニズムの庭園観(就中ハートリブ・サークルのシヴィック・ヒューマニズム)。(3)それを次世紀初頭の風景式庭園誕生に繋げた、王政復古期のシヴィック・ヒューマニズムとエピキュロス主義の庭園観。(4)更に、それが一八世紀にどう受容されたかを、庭園の商品化批判を絡め、ポープのシヴィック・ヒューマニズム的庭園論に関して見た。 「研究発表」の欄に挙げた四つの論文は、以上の四つの内容に順に対応する。 また一九世紀初頭のレプトンとラウドンの庭園論に関しても概括的・先行的な研究を行い、その成果を平成10年10月にドイツで開かれた第9回グライフスバルト・ロマン派学会で発表、批判等を乞うた。
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