一年目の本研究は、場所の持つ感性的効果を、いくつかの類型を仮定しながら考察することに費やされた。その類型は身体の移動の形態や行為の種類に基づいて分類されたが、大きく二つの系列に区分される。一つは、「物理空間-生活空間-公共空間-作品空間」であり、他方は、「聖地-巡礼地-名所-史跡-観光地-公共施設-住宅」である。 まず、第一の系列の考察により、我々は自らの感性的空間が、目的や価値といった倫理的範疇に属するものによって一つの具体的な場所として立ち現れてくることが明らかになり、我々の生活空間がいわゆる物理的空間なるものを想定した場合、それと比べて如何に特殊なものか、またそれが如何に必然的に公共空間を目指したものかが確認された。それと同時に、作品空間も、それ独特の方法ではあっても、やはり同様に公共空間を指向することが確かめられた。 次に、第二の系列の類型を検討することによって、歴史的状況の反省がなされた。生活空間への超越的時空間の介入として理解される聖地や巡礼地がもたらしていた世界の感性的経験が、いわば一種の還俗を果たすことによって、次第次第に人間社会の公共的場所としての性格を帯びることになったが、その過程に際しては詩的世界の介在が与って力があったこと、またそれは観光地や娯楽施設の有する大衆性と密接な関係性を保っていることが知見として得られた。 霊地が感性的な世界の中心として、生活上でも価値の高低をそれとの距離によって定めていたような基準点の地位は、近代に入ってからは記念碑的効果を持つ場所や人物、建造物が占めることになったが、その役割を今日担っているのはマス・コミュニケーションにおける有名性である。
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