研究概要 |
今年度は,単語認知過程における空間的な視覚情報の処理と,言語固有の情報の処理とがどのように関係をもちながら単語認知を成立させているのかを明らかにすることを目的とした.空間的な視覚情報や言語固有の情報にはさまざまなものがあるが,本研究では,空間周波数成分と語彙性に着目した.いくつかの先行研究では,視覚的に呈示された文字(漢字,仮名,アルファベット)の認知に最低必要な空間周波数成分が明らかにされており,その周波数の高さは,文字の複雑さ(たとえば,画数)によって,異なっていることが示されている. 今年度の研究では,複数の文字から構成される単語や非単語を認知するのには,どの程度の空間周波数成分が必要となるか,また,単語や非単語の中という語彙的文脈情報がある場合,文字を認知するのには,どの程度の空間周波数成分が必要となるかを調べた.まず,漢字文字,漢字単語,漢字非単語にローパス型の空間周波数フィルタをかけた刺激を被験者に呈示することによって,それぞれの刺激の認知に最低必要な空間周波数成分を測.定した.この結果,各刺激を認知するには,それぞれ,4.3 cycle/character(以下ではc/cとする),3.9c/c,4.6c/c程度の周波数成分を必要とすることが分かった,また,より複雑な(画数が多い)文字,単語,非単語の認知には,より高い空間周波数成分を必要とすることが確認され,その差は,文字と非単語ではおよそ1c/c程度であったが,単語では,その差がややか小さい(0.7c/c)ことが明らかとなった.さらに,語彙的文脈中の漢字文字の認知に関して,単語中の文字の認知は,文字単独や非単語中の文字の認知よりも低い空間周波数成分で成立することが示された.これらの結果は,単語がもつ語彙的文脈の情報処理が促進的に空間的視覚情報処理に作用すること,非単語を構成する個々の文字はほぼ独立的,並列的に処理されうることを示唆している.
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