他者の情動を判断する過程は、表情をはじめとした多くの情報を統合するプロセスである。本研究では、情動判断に際して表情と、状況などの文脈情報とがどのように寄与し、相互に影響しあっているのかを解明することを目的とした。 本年度は、これまでに実施した表情と情動喚起刺激の相対的重要性についての検討をさらに進めるため、表情と情動喚起刺激という2つの情報源の提示順序を変えた実験を実施した。その結果、両者を同時に提示した場合には、表情の重要性を示す結果が得られていたのに対して、一方ずつを継時的に提示した場合には喚起刺激が重要であるという結果となった。この結果には、状況情報が影響している可能性が考えられるので、現在その検討を行っている。また、この研究に関してこれまでにまとめた部分を、ISRE(International Society for Researches on Emotions)1998年大会において発表し、またアムステルダム大学のN.Frijda教授をはじめとする研究者にレビューを受け、今後の研究の計画に重要な示唆を得ることができた。 この研究と平行して、本年度は文章化された文脈情報のみが与えられた場合と、それに表情についての情報が加わった場合とで、情動判断がどのように変わるのかを検討した。結果は単純ではなかったが、総じて表情の情報が加えられることによって情動の判断が変化することが示された。また、文脈によって「自然だ」と見なされる表情とそうでないものとがあることが示唆された。これらの結果は情動判断における表情の重要性とどのような場面でどのように表出すべきかについてのルール、すなわち表示規則とを反映していると解釈できる。
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