【目的】本研究は、ジュウシマツの高次発声制御中枢(HVC)における聴覚フィードバック機構を明らかにすることにある。その第一段階として、HVC聴覚ニューロンの継時的符号化様式について検討した。 【方法】歌刺激提示時(30回提示)のニューロン活動を、神経遮断性麻酔下で同芯円電極を用いて細胞外記録した。記録されたニューロン活動は、テンプレートマッチング法を用いてできるだけ単一ユニットに分離することを試みた。歌刺激は、被験体からあらかじめ録音しておいた歌から作成した。通常方向での再生に加えて、(1)時間軸上での逆方向再生および(2)先行する歌要素を削除したものを用意した。 【結果および考察】同芯円電極で記録された波形はマルチプルニューロン活動であったが、単一のユニットとして分離すると、いくつかのサブタイプに別れる傾向にあった。(a)自発発火頻度が高く歌刺激に応答しにくいもの、(b)自発発火頻度が低く歌に対して比較的持続的に応答するもの、そして(C)歌の特定部分に一過性の応答を示しその記録波形が緩余に変化するものなどに分類することができた。このタイプのニューロンでは、記録部位によって応答を示す歌要素が異なっていた。これらのことは、HVC内で異なるタイプの聴覚ニューロンが近傍に集合(クラスター化)して情報処理に関与していることを示唆するであろう。逆方向再生時の応答量は、通常方向再生時と比較して著明に減少した。逆方向再生時には、すべての歌要素に対する応答量がほぼ一定レベルであるのに対して、通常方向再生時では歌要素によって応答量が大きく異なっていた。これは、通常方向再生では、特定の時系列パターンに選択的に、継時的な応答の促進が起るためであろう。この点を検討するため、先行する歌要素の長さを変えた時の応答量をしらべてみた。歌の後半部分を提示すると、持続的な応答がみられるニューロンが存在した。さらに先行部分を短くしても応答は認められるが、直前の歌要素を除くと応答は消失した。このように、ジュウシマツHVCの自己の歌に対する応答は、文脈依存性の継時的応答の促進の結果と考えられる。
|