本研究の目的は、人間の視覚運動情報処理機構の理解のため、異なる原理に基づく複数の処理過程の存在とそれらの階層的な構成を明らかにすることである。本年度は、画像の輝度変化に基づく一次運動刺激と、輝度変化以外の二次的な属性に基づく二次運動刺激の処理様式の違いを明確にするために視覚探索の手法を用いた心理物理学的実験研究を行った。画像はすべてコンピュータによって生成され、CRTディスプレイ上に提示された。被験者は画面に提示された運動刺激の運動方向を判断する課題を行い、画像中の運動要素の数を変えながら反応時間が測定された。結果から、一次運動の処理は運動要素の数に影響されずに並列的であるのに対し、二次運動の処理は要素の増加とともに困難になり、限られた処理資源を視覚的注意によって配分しながら処理を行う、逐次型の処理しかできないことが明らかになった。この結果は運動知覚が異なる方略に基づく複数の処理機構に媒介されることを示すとともに、その処理において、適応的に資源の配分を伴う脳内では比較的高次の領野に存在する機構が関与することが示唆された。これまで、二次運動のために特化した自動的な処理機構が存在するのかどうかが議論されてきた。今回の結果は、二次運動はむしろ、より広範な刺激を対象とする注意に基づく特徴追跡型運動処理機構によって知覚されている可能性が高いことを示す点でも重要である。
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