平成10年度は、写真刺激を用いて、チンパンジーの自然物概念を調べる実験をおこなった。チンパンジー4個体を対象に、自然物写真の弁別とカテゴリー化を調べた。刺激には、4つのカテゴリー(花、樹木、草本、地面)から、各カテゴリーに属するアイテムを4つづつを選び、さらに各アイテムについて向きや数などを変えた写真を3枚ずつ、計48枚の写真を用いた。4選択見本合わせ課題において、比較刺激が互いにカテゴリーの違う条件(条件1)と、見本と同じカテゴリーの条件(条件2)で訓練した結果、条件1ではほぼ100%の正答率に達したのに対して、条件2では約70%にとどまった。続いて、条件1における見本と同じアイテムの代わりに同じカテゴリー内の別アイテムの写真を用いてテストしたところ、すべての個体で、見本と同じカテゴリーの別アイテムを有意に高い水準で選んだ。結果から、自然物について、チンパンジーが個々のアイテムを弁別しながら、そのアイテムが属する自然物カテゴリーをも認識していることが示唆された。この成果は、平成11年度動物心理学会第59回大会、日本心理学会第62回大会で公表予定である。 このように、写真刺激を実在の自然物として、チンパンジーが認識できる結果を受けて、500枚以上のチンパンジーの顔写真のデータベースを構築し、これらを用いて、他個体の認知、社会関係による分類等の研究を平成11年度におこなう予定である。 なお、平成10年度には、実験者が与える、指さし、顔の向き、目線などの手がかりを、ヒトと大型類人猿がどの程度利用可能かを研究した論文がJournal of Comparative Psychologyに公表された。
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