研究概要 |
運動視差の処理過程と両眼視差の処理過程とが共有しているのが起伏の空間周波数対応チャンネル的過程であるのか否かを検討する実験を実施した.具体的には,運動視差と両眼視差とが様々な空間周波数の正弦波関数に従って垂直方向に起伏する表面をシミュレートするランダムドット刺激の観察における奥行知覚閾値を測定した. 実験データより,以下の2通りの結果を見い出した. 1. 奥行知覚閾値の低下 運動視差と両眼視差とが同じ空間周波数(0.19cpd)で,かつ同じ位相で起伏する表面を提示した場合,それぞれの手がかりが単独で提示された場合よりも有意に閾値が低下する.ただし,これらの手がかりが1.5オクターブ異なる空間周波数で起伏する表面を示した場合,このような閾値の低下は認められなかった. 2. 奥行知覚閾値の上昇 運動視差と両眼視差とが同じ空間周波数(0.19cpd)で,かつ逆位相で起伏する表面を提示した場合,それぞれの手がかりが単独で提示された場合よりも有意に閾値が上昇する. 奥行知覚閾近傍における干渉を示すこれらの結果は,運動視差からの奥行知覚過程と両眼視差からの奥行知覚過程が何らかの過程を共有していることを示唆している.また,この閾近傍干渉がそれぞれの手がかりが示す起伏の空間周波数に依存していることから,運動視差の処理過程と両眼視差の処理過程とが共有しているのは空間周波数チャンネル的な過程であるというIchikawa&Saida(1995)の結果と一致している.こうした結果に基づく議論はIchikawa&Saida(1996)において論文発表された. 現在,これら2つの手がかりからの奥行知覚の閾近傍における干渉が,輪郭手がかりとの間にも存在するのか検討する実験を実施中である.これらの実験結果は,今後,国内外の学会および雑誌論文で発表する予定である.
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