本研究ではタッチパネルと刺激呈示装置によるシステムを採用し、左半側空間無視患者の線分二等分における障害について理解を深めることを目標としている。本年度はこのうちのタッチパネルシステムを用い、基礎的なデータの収集を開始した。 まず、線分二等分の際に左半側空間無視患者が線分の全体を把握しているかどうか検証するための実験を行った。呈示する線分は右端の位置を画面上で一定の位置に固定し、その長さを徐々に変化させた。この線分を左半側空間無視患者に二等分させたところ、左半側空間無視重度の患者では線分の長さと線分の右端から患者のつけた二等分点の位置までの相関が低下し、線分の左端に対しては認知が不十分であるとの結果を得た。この結果については、現在、学術誌に投稿準備の段階にある。 しかし、このような患者でも左方への運動自体に問題はなく、線分の左端を指し示すように求めると、左端を指摘することは可能であった。そこで、左方にある対象についての空間的記憶に問題がないかどうか検証した。画面の左方に黒い点を呈示し、それを患者に指摘させた後に消去した。そして2秒の遅延後に、患者に再びその位置を指摘させた。この実験はまだデータの収集を継続中であるが、線分の左端を自発的に探索する事が努力性の左半側空間無視患者であっても、左方の刺激の位置を大まかに記憶する事が可能であることを示唆する結果を得ている。 今後システムを改善し、運動そのものではなく、運動の開始における困難を反応時間から検証する予定である。また、線分の認知における障害についても検討を深める。
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