研究概要 |
本研究では,科学的概念を得ることによって日常的概念を中心とする知識体系がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とする.平成10年度は、研究1として、子どもは、科学的概念と日常的概念をいかに関連づけているのかを検討した.既に以前に行った〈実験1〉の結果に基づいて,本年度行った〈実験2〉〈実験3〉では,科学的概念の枠組みの中に日常経験を統合する方法としてどのようなものを想定することができるのかを明確にし,統合の仕方は発達的にどのように変化していくのかを検討した.「地面は平らに見える」という日常経験を地球の形についての科学的概念(「地面は丸い」「球面の至るところに人間や事物が存在する=ものは下に落ちない場合がある」)の中に統合するためには,地面の見え方の変化を説明する原理(「どのような場合に地面は丸く見えたり,平らに見えたりするのか」を説明する原理)を獲得することが必要である.そのような原理として次の二つの原理を想定した.第1に,地面の見え方が変化する具体的な状況を個別的に説明する個別的原理(「地球からの距離によって地面の見え方は変化する」「地球の大きさによって地面の見え方は変化する」「地球上の人の大きさによって地面の見え方は変化する」)である.第2に,具体的な状況を超えて一般的に適用可能な一般的原理(「地球のほんの少しの部分しか見えないときは地面は平らに見え,多くの部分が見えるときは丸く見える」)である.小1・16名,小3・15名,小5・14名を対象にした二つの実験(実験2,3)の結果,個別的原理は小1において既に獲得されていること,一般的原理は小3〜小5の間のある時点で獲得されることが明らかになった.このことから,最初に,個別的原理を導入することによって日常経験の統合がなされ,後に一般的原理を導入することによって日常経験の統合がなされるようになると推測される.
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