障害児・者に関する先行研究について、他者や環境との「関係性」という観点からWHOの障害の定義であるhandicapped・disability・impairmentの3つの次元との関連に注目し、問題と今後の課題について論じた(教育心理学年報1999 「関係性からとらえた障害児・者研究の動向」)。ここで問題点として指摘したもののうちのひとつとして、他者との関係性の変化を細かく時系列的に分析する必要性という点に注目し、コミュニケーションにおける言語的・非言語的なやりとりについて、他者の意図をどのようにとらえ対応しているかに焦点をあて検討をすすめた。相手の特性に応じた関わり方をするために機能するメタ認知は、情動的側面を含めたコミュニケーション場面においてより発揮されることが予測されたため、情動的なやりとりを多く含む場面として遊びの場面を設定し、そのなかで他者の気持ちにいかに反応するのかについて、5歳9ヶ月の自閉傾向を示す精神遅滞児を対象とした心理面接過程1年11ヶ月間の関係性の変化を分析した。その結果、認知的・情動的な側面を含めた相互交渉を通じて、他者の視点を意識しはじめ、自己の行動をコントロールしたリモニターするなどのメタ認知的活動を活性化し形成していく過程が示された(静岡大学人文論集1998 「自閉傾向のある精神遅滞児との遊びを通じた意図の共有化過程」)。これらの結果より、遅滞児における他者との意図の共有化過程では、他者が子どもの意図を反映するようにいかに関わるか、そのような役割を担う他者の関わり方がより重要になってくるといえる。また、このような相互の意図を共有していく過程の変化がメタ認知の起源についての糸口を示していることが示唆された。
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