平成10年度においては、主に行った活動およびその成果は以下のとおりである。 1. 鬱病に関する認知モデルの展望に関する検討(平成10年度、前半、後半を通して) これまで、鬱病の認知モデルとしては、A.T.Beckの提唱したもの(以後、シェマ理論"schema theory")がよく知られていた。認知心理学の領域における研究を展望したところ、1990年代後半よりWatts、MacLeod、&Mathews(1988、1997)の提唱した統合モデル(integration model)が多くの研究で言及され、検討されている。また、多くの実験結果は統合モデルの予測や説明に合致することが明らかになった。しかしながら問題点もいくつかあり、それらを説明する新たなモデルを投稿中の論文において提唱した。 2. 自動思考現象を測定するための装置の開発(平成10年度、後半) 鬱病における自動思考現象を測定するために、単なるボイス・キーではなく、言語内容のコンピュータへの取り込みをさせる装置の作成を試みた。現在、(株)IBMの提供しているVia Voiceとその開発ツールを使うことにより、実験用のソフトウェアを開発している。発話をms単位で測定できるだけでなく、発話内容をテキスト・ファイル化でき、結果の分析に幅を持たせることができる。これにより当初の目的を果たす実験装置が作成でき、平成11年度より実験に入ることができる予定である。 研究の進行度合いを評価すると全体に遅れ気味である。平成11年度においては、自動思考現象の発生条件の検索的検討を効果的に行う必要がある。その際に、平成10年度に行った「鬱病の認知モデルに関する文献展望」の結果が役に立つと思われる。
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