本研究は対人行動能力を検討する上で、相互作用相手に関する諸変数を検討し、社会的スキルなど、対人行動能力は個人の特性ではなく、状況要因により対人行動方略が異なり、その適切性および効果性が状況依存的であることを明らかにすることを目的とした。具体的に、Brown&Levinson(1987)のpoliteness theoryおよび社会的アイデンティティ理論の枠組みを応用し、対人コンピテンスの概念の文化的普遍性を明らかにしようとした。研究1では、対人コンピテンスを特性論的な観点からアプローチし、文化的に多様な対人行動スキルを含む尺度を開発し、日米での因子構造に比較を行った。抽出的エティック法により、両文化の共通因子および各文化に特有な因子構造を見い出し、文化的普遍な能力を特定した。研究2では、直接的(2方略-直接、直接丁寧)および間接的(4方略-暗示、第3者介入、機嫌とり、回避)な対人コミュニケーション方略に焦点をおき、6つの相互作用状況(依頼、断わり、自己主張、謝罪、批判、助言)において、相互作用相手の年齢(年上、同年齢)と親密性(内集団、外集団)を、こうした方略の使用頻度、適切性の認知および効果性の認知を日米を比較して検討した。結果として、日本人よりも米国人のほうが関係性の要因に対してより識別していたことがわかった。また、日本人のほうが一般的に直接方略を使用する一方、米国人のほうが直接方略をより適切で効果的であると認知していることがわかった。最終的に、研究1および研究2を通じて、特性論的アプローチよりも関係性の要因を考慮するアプローチのほうが、文化による詳細な違いが明らかにされ、文化的差異をより性格にとらえていることが判明した。
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