本研究でいう自己専心行動とは、他者への配慮無しに自己の関心事に専念し、あるいは自己の権利を追求する行動のことである。このような行動は個々人の成長および拡大につながる一方で、親密な対人関係の形成や維持にとってはマイナスにはたらく場合があり、対人間ジレンマの源泉となる。本研究ではこのような現象に関して研究をすすめた。 理論的知見をふまえながら実態把握のためのインタビュー調査、各種の資料分析、アンケート調査を行い、得られた知見の概要は以下の通りである。 まず、もし自身が望んだとしても、実際には自己の関心事に専念することが困難な人々の代表として、育児中の母親および高齢者介護を行う人々があげられた。これらの人々は、日々すべき事柄の性質上、自由に自己の関心事を追う時間と余裕を持つことが難しいのみならず、自身でも自由な時間(余暇)を持つことに罪悪感を持つ場合の多いことが示された。レスパイト(息つぎ)が成立しにくい土壌が、ケアを担う人々自身のなかに存在するのである。ただし、それをとりまく周囲の人々が、状況へのコミットメントをあえて避ける言動をすることが、レスパイト成立をさらに困難にしていることも指摘された。 家族そして育児や介護のような、他者への配慮の規範が優位の場面では、他者への視線を向け、他者への関心を持ち続けることが良きものとされる一方で、自身及び自身の関心事へ視線を向け、他者に関心を払わないことは一般に、無条件に禁止すべきものと判断され、自由な行動が自己規制されがちである。このような悪連鎖を断ち切るにあたって、セルフヘルプグループ等の集会における素直な自己表現と自己受容のプロセスが有効であることも明らかになった。
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