本研究の目的は、青年がアイデンティティを探求し、決定する上で、他者との関係性がどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである。特に、男性と女性の比較検討を行い、両者の共通点と相違点を検討することに焦点を当てる。本年度は、女子青年(大学生35名)についてのデータを取り終え、分析を行った。現在までに明らかになったことは、以下の3点である。 1. アイデンティティの探求において示される関係性には、6つのレベルがある。それらは、イデオロギーの選択・決定のプロセスにおいて、他者との関係性をまったく持たない(レベル1)、他者との関係性が乏しい(レベル2)、他者からの影響が非常に強い(レベル3)、他者との関係性を十分に持つ(レベル4)、自己と他者の視点の間の食い違いを体験した(レベル4.5)、自己の他者の視点の間の食い違いを体験し、両者の間の相互調整を通して解決した(レベル5)である。 2. 関係性のレベルとアイデンティティ・ステイタスとの間に有意な連関が見られたので、アイデンティティの発達において関係性が重要な役割を果たすことが確認された。これは、従来のアイデンティティ研究が、他者からの分離を強調するあまり見過ごしてきた発達のもうひとつの側面の存在を示唆する。 3. 関係性のレベルの高い対象者と低い対象者の比較検討により、家族における日常的な葛藤を解決する経験が、高いレベルの対象者に特徴的に見いだされた。このことは、家族における葛藤を含むコミュニケーションが、他者の視点を考慮しながら自己の独自な視点を明確にするための、重要なトレーニングであることを意味する。 来年度は、男子青年のデータを加え、関係性の役割が男性と女性とではどのように異なるのかを明らかにする。
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