本研究では「創発性」の概念をめぐって、次のような形でその明瞭化を試みた。 まず理論研究として、社会学における「創発」概念の取り扱いについて、おもにG.H.Meadの理論に依拠しながら吟味を行った。人間的な意識発生のプロセスそのものに、そもそも創発性の契機が内存していること、またそうした個人の中からわき出てくる創発性が、社会の創発性にどのようにしてつながっていくのかを検討していった。 またこうした理論的吟味と並行しながら、実態調査として、いくつかのネットワーク型組織を調査した。(1)長崎県雲仙普賢岳噴火災害・阪神淡路大震災のそれぞれの災害における災害ボランティアの活動から、非日常時のネットワーク組織を、(2)過疎地域・都市地域での地域づくりグループの活動から、日常時のネットワーク組織を、という形で、ネットワーク団体の形成・発展・解消の過程を比較検討していった。 以上の研究を通じて、「創発性」概念が、社会を考察する上できわめて重要な位置を占めていることを確認した。と同時に、この「創発性」の社会学を、これまで社会学が主に手がけてきた「共同性」の社会学と接続していく必要であるとの感触もえた。とくに問題解決プロセスの中で、社会の「創発性」および「共同性」がいかに位置づけられるか、に注目すべきである。両概念の接続により、社会学の理論研究および実証研究のさらなる進展が見込まれるが、本研究ではこの点の指摘にとどまった。
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