東南アジアを含むアジアの家族パターンを概観し、それがどういった組織のあり方と関連しているかといった基礎的な論点については、「比較の中の日本の家族」で展開した。必ずしも父系血縁を継承線の原則としない東南アジアは、父系が原則の東アジアに比べて継承線がはっきりせず、また女性の性行動を自由にしやすい。東アジアの中では、血縁原理が絶対的に優位を持つ中国・朝鮮半島に比して、家族を構成する要因として血縁が絶対の粂件とはならない日本では、家族が企業組織に転化しやすいこと、きょうだい間の序列のある日本・朝鮮半島では、年齢階梯型の組織を作りやすいことを指摘した。その後さらに中国関係の学会のシンポジウムでパネラーとして報告を行う機会を得た。これを受けて執筆した「中国社会のジェンダー」においては、家族規範の点から考えても自由主義の伝統を持たない中国においては、男女の平等を巡る戦略においても、個人の自由を抑圧した、集団としての「女」の平等という戦略が採られやすいことを指摘している。また性暴力の問題に関しては、「性暴力へのアプローチ」において、東アジアにおける強姦の報告件数などを比較しながら、従来は単に「日本では実際の発生件数に対して、報告率が低い」といった形ですまされてきた強姦の問題について、実際の発生件数もかなり低いと考えられること、その要因などを性規範などとの関連で論じている。東アジアにおいて性犯罪の問題を考えていく際の基本的な視角を得ることができたと考えている。
|