本年度は、精神障害者・家族の関係を、ケアの受け手・ケア提供者として固定的にとらえる視点からではなく、障害者-家族が相互に規定し合う双方向モデルとして位置づけ、障害者・家族双方からの回答データの分析・考察を通じて、障害者-家族、双方にとって好ましい関係性を模索し、理論化することを目的とした 本年度の前半では、既存データの再集計作業や文献研究を通じて、精神障害者-家族の相互関係と家族ケアの実状を、理論的・実証的にどのようにとらえることができるのか検討を行った。これにもとづいて、本年度後半では、精神障害者家族会もくせい会会員全数2117名と在宅生活を送っている障害者を対象に、ペア調査を郵送で実施した。今のところ次のような結果が明らかになっている。 1. 家族のストレス状況は慢性的状況にあり、このような状況下では、障害者・ケア提供者ともにwell-being獲得が難しいことが示唆された。 2. ケア提供者/障害者双方のネットワークは、専門家や家族会会員などに限定されがちな傾向が強く、特に近隣関係からの孤立が顕著である。 3. 障害者やケア提供者・本人間で「障害のとらえ方」「リハビリテーション・社会復帰の目標」「家族関係」などに関する認識が必ずしも一致しておらず、このことと相互関係の安定性とが強い相関を示している。 4. 相互関係が安定していても、障害者、ケア提供者がこの関係のみに自己のアイデンティティの基盤を見いだすような形で保持されている場合、ストレス状況に陥りやすい。そして、関係性を決定する要因として、制度状況やネットワークなどの社会資源状況が深く関係していることが示唆された。 なお、調査結果の概要については、既に家族会各単会事務局を通じてフィードバックしており、来年度実施予定のインタビュー調査への協力に関して100名あまりの会員から承諾を得ている。
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