本年度においては、以下の(1)(2)の作業がおこなわれた。 (1) 女子中等教育拡大の動態の解明 大阪地域を対象とし、『大阪府統計書』および、文部省『女学校ニ関スル諸調査』を用い、戦前期における女子高等女学校就学者の拡大構造についての分析をおこなった。 (2) マス・メディア記事の分析による女子進学に関する社会意識構造の解明 戦前帰における主要な女子教育雑誌である『女学雑誌』および『女学世界』を対象とし、中等教育進学および卒業後の進路形成に関する意識についての記事を収集し、そこにおいて、いかなる家庭的・階層的な要因が反映されているかについて、分析をおこなった。 これら(1)(2)の作業により、(1)先行研究でしばしばとりあげられていた男子中等教育拡大構造とは異なった、女子中等教育に特有の教育拡大パターン、(2)既存の教育社会学領域の研究(例、立身出世主義に関する社会意識論)によって言及される男子のものとは異なった、女子特有の教育アスピレーションの構造、が明らかになった。これにより、先行研究における技術機能主義的な学校教育拡大モデルとは異なった教育拡大モデルの提示の可能性が示された。また同時に、本研究の示す教育拡大モデルは、近年のフェミニズム歴史学において援用される「女子の国民化」論と女子教育拡大を結び付ける議論とは、一線を画すものであると考えられる。
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