本研究においては、看護職を中心に、福祉職・教育職なども含めた「対人専門職」における職業的社会化のメカニズムとアイデンティティ形成に関する実証的研究を行ってきた。その成果として、およそ次のような知見を得ることができた。1養成所と看護系短大/4大の学生を比較すると、入学時点での職業アスピレーションや看護像に大きな隔たりが見られる。しかし、これらの意識面での格差は、卒業時点においては、より現実的な看護像へと収斂することによって、おおむね解消される傾向がみられる。ただし、就職先などを規定する「トラック」としては、一定程度現実的に機能している。2「対人専門職」の養成過程においては、共通して、資格取得を中心としたメリトクラティックな学校観を持つものが多かった。また同時に、比較的対人関係の濃い学校生活を営んでいることもわかった。一般大学生と比較した場合、小人数クラスをベースとした対人関係が、アスピレーションの低下や目的意識の拡散を防止していると考えられる。3こうしたメカニズムによって、「対人専門職」の養成過程においては、看護系短大/4大に典型的に見られるような冷却-再加熱型の教育が可能であったと考えられる。それは、入学時点でのロマン主義的職業観にもとづいた比較的高いアスピレーションを利用しながら、より現実的な職業観を再構築していく過程である。 今後の研究においては、これらの知見をもとに、病院・施設など就業機関での社会化との不連続性、およびアイデンティティの再構築の問題について考察していく予定である。
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